◆ 登場人物紹介
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 ●長生 久視(ながおひさし)
  「長生久視(ちょうせいきゅうし)」という言葉(老子)が元ネタ。長く寿命を保つこと。長命。長生の意。
 
 ●天使さん
  有瀬慎二氏作の「あるいは、モノクロな死神と、」に登場する「死神」と対(コントラスト)をなす存在として、双城真也が「完全無欠の萌えキャラ」の象徴として作ったキャラクター。
 
 ●彼
  有瀬慎二氏作の「あるいは、モノクロな死神と、」の主人公(現在のところ名無し)
 
 ●死神(さん)
  有瀬慎二氏作の「あるいは、モノクロな死神と、」に登場する。原作では「死神」「彼女」という呼称であるが、双城真也は、萌え的敬意をこめて「さん」を付けて呼ぶ。

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 ◆ まえがき
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 ――長きに亘る友好の証に。
 
           *     *     *
 
  本作品は、有瀬慎二氏が、そのホームページ(「疎外された空間」http://homepage3.nifty.com/suiri/)上で公開した創作小説「あるいは、モノクロな死神と、」の、特に、「死神」さんというキャラクターへのオマージュを込めた、パロディ小説である。
  尚、登場人物の「長生久視(ながおひさし)」及び「天使さん」は、本作品の作者たる双城真也が独断で創造したキャラクターであり、有瀬慎二氏の意志とは関係の無いことを、ここで断っておく。
  ちなみに、本作品内に登場する「彼」及び「死神(さん)」は、有瀬慎二氏の手になる原作登場人物のことであるが、彼らのキャラクター性、さらには全体の世界観等諸々の設定が、必ずしも原作者、並びに原作ファンの皆様方のご意向に沿うものとはなっていない可能性があることも、ここで予め断らせていただく。
  以上のことを踏まえた上で、一原作ファンの手になる一パロディ小説として、本作品がより多くの読者にひと時の暇潰し、ないし楽しみを提供できれば、至福に思う。
  最後に、当然のことではあるが、本作品をお読みになられる前に、原作「あるいは、モノクロな死神と、」を読んでおくことをオススメする。そうでないと、本作品の意義が薄れてしまうという意味もあり、原作のためにも、本作のためにも、是非そうしていただきたいと切に願う。

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 ◆ 本編
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      序章・天使の降臨
 
           ※     ※     ※
 
  私の名前は、長生久視。男である。
  年齢は……まぁ、青年層ということで。
  そんな私は、つい今しがた、というか今現在リアルタイムで、ものすごい出会いを果たしているところだ。
  私もついに発狂でもしてしまったか、と一瞬思ったが、否否、それはない。
  私はちゃんと物事を考えられている。
  ではこれは、幻視・幻覚の類だろうか?
  それとも、これが俗に言う、幽霊というやつなのか?
  何の話をしているのかって?
  今私の目の前に立って…いや、浮いている――というか飛んでいる?――純白の美少女のことを指して言っているのだ。
  まぁ、背中に羽らしきものが見えるのは、何かそういうリュックを背負っているか服を着ているかと考えれば、今現在のところは、ひとまずの説明が付けられる。
  しかし、コンサートやミュージカルの舞台でもない、私の安アパートの一室で――何の装置も無いはずのこの空間で――人体浮遊など、いったいどういう理屈で可能になるのか?
  そもそも、いつ彼女はこの部屋に入ってきた?
  いくつもの疑問が私の脳内を駆け巡るが、私の表面は、案外と冷静であった。
 「君は誰?」
  冷静に、一番気になっていることを問いただす。
  いや、浮いていることとか、いつ入ってきたんだとか、その羽は直に生えているのか、とかいった疑問は、別に後で究明できなくもないだろう。
  この世は意外と知らないことでいっぱいだ。ブラックボックス、びっくり箱、玉手箱の類は、探せばいくらでもあるだろう。
  しかし、それらは一般庶民たる我々が、ただ知らずに過ごしているというだけで、知っている人は知っているもの。
  今回の突発性美少女出現浮遊現象だって、何某か科学的な根拠があって成立している事象なのかもしれないじゃないか。
  今重要なのはそんなことではなく、その現象の張本人らしい、この美少女の正体を突き止めることなのではないか。
  そう私は冷静に判断し、上の質問を発するに至ったのだ。我ながら、この冷静沈着ぶりには惚れ惚れするね。
 「私は――」
  純白の美少女が口を開いた。どうやらただのしかばねではないようだ。
 「ワタシはあなたの天使でぇっす♪」
 
  ハイハイワロスワロス。
 
  そんな言葉を発しようと思った君、ちょっと待ちたまえ。
  これが私と天使さんとの、出会いだったのだ。
  信じないのならそれで良い。さっさと他のスレ…じゃなくて、現実に戻りたまえ。
 
      一章・天使と死神
 
 「――というわけで、今に至るというわけなんだよ君ぃ」
  どういうわけか、私は、かの純白の美少女が「天使」という概念に属する存在であり、それにまた「長生久視の」という冠詞がくっついてしまうらしいことまで瞬時に理解できた。何か感知不能な強制力を感じたが、それを気にしようとしてもできなかったので、半ば諦めるかたちで、私は天使さんを受け入れることになった。
  しかし、これが吃驚仰天の事実である事もまた確かなものとして認識できたので、さっそく某友人の部屋に押しかけて、「私の天使さん」を見せびらかしにきた、というわけ……なのだが……。
  某友人の部屋に入ると、私は椅子に座ってこちらを振り返っている彼以外の――今までに会ったことのない――存在を認めたのだが、何故か大して疑問に思うことなく、立ったまま、自らの天使さんとの出会いエピソードを語り始めたのだったが、話ここに至って一区切りが付いた影響か、ついに私はその疑問を発した。
 「彼女は誰?」
  私は、彼のベッドにうつぶせになり、本をさかさまにして読んでいる黒い少女の存在に関する疑問を発した。
  彼答えて曰く、死神、なんだそうな。
  これもまた不思議なことに、私は何の疑問も無く、ただ「ふぅん」の一言を以って、それを事実として受け入れられた。
  触らぬ神に祟り無し、というやつか? パンドラの匣は開けずにおくからこそのパンドラの匣、か。これには反論がありそうだが……。
 「それにしても……」
  今度は彼が疑問を発する番だった。
 「君にも、彼女が見えるの?」
  どうやら彼は、自分以外の人間には、今ベッドにうつぶせて本を眺めている――読んでいるのか疑わしくなってきた――死神という存在が見えないものと思っていたらしい。
  彼は私と違い、死神の存在を無条件に受け入れられないのだろうか?
 「見えるよ」
  私は答えた。そこで、今まで気づかなかった疑念が浮かび、私は問うた。
 「もしかして、君には私の天使さんが見えなかったりするんじゃないだろうね、ええ?」
  彼はゆっくりと首を巡らし、私の斜め左背後――天使さんが浮かんでいる空間――に視線と焦点を合わせ、
 「どうやら見えるらしい」
  そう答えてくれた。
  私は安心し、地べたに胡坐をかいて座った。天使さんも私の隣に来て、正座の格好をして降りてきたが、何故か完全には着地せずに、微妙に浮いたままだった。
  そこで落ち着いた私は、再び死神とやらに視線を送った。
  彼女が眺めている本は……『完全自殺マニュアル』。
  黒いハードカバーだった。
  ……おかしい。
 『完全自殺マニュアル』は私も持っている。しかし、あんな黒いハードカバーで出版されているなど、聞いた事も無ければ見たことも無い。
  あれは異次元のアイテムなのか!?
 「ねぇ君」
  私は彼に問うた。
 「彼女が読んでいる本は、いったいどこで手に入れたんだい? 是非入手経路を教えていただきたい」
 「ああ、あれは貰い物ですよ」
  私はガックリと項垂れた。
 「はい、どうぞ♪」
  と、私の隣に座って(?)いた天使さんが、私に何か黒いものを差し出してきた。
  見ると、黒いハードカバーの『完全自殺マニュアル』であった。
 「こ、これをどこから!?」
  訊くと、天使さんはニッコリと笑って、
 「異次元のアイテムです♪」
 「や、やっぱり…そうだったのか……」
 「ねぇ……」
  突然、聞きなれぬ声がした。
  声の発生源を、耳に残った音の残滓を頼りに、視線を向けると、
 「さっきから騒々しい、これは、何?」
  死神とやらが、彼に向かって、且つ、私と私の天使さんを交互に指差しながら、問いただしていた。
  私たち本人には聞かないのね。しかも物扱いですか、あなた。
 「知り合い……と、その天使」
 「友達だろ!?」
  彼の説明に、身を乗り出しながら異議を唱える私。
 「その可能性は認めるけど、それ以前に知り合いであることは、君も認めるよね?」
 「はい、認めます」
  私はスゴスゴと引き下がった。
 「大丈夫ですっ、ワタシはあなたの天使ですからっ♪」
  なんだか訳の解らない事を天使さんが言っているが、訳が解らないなりに嬉しかったりした。
 
                *
 
  どうも反応の鈍い某友人の部屋を後にした私は、帰路の道中、死神とやらの存在について考えていた。
  私のところには「天使」が現れ、彼のところには「死神」が現れた。
 「天使」と「死神」……共通しているところと言えば……「死」を想起することができる、という点だろうか。
 「天使」と言えば、普通、恋のキューピッドなどのほうを連想するのかもしれないが、かの有名なネロとパトラッシュを天界へと拉致し去ったのは、やはり天使なのであることを忘れてはいけない。
 「ねぇ天使さん」
  私は直接訊いてみることにした。
 「は、あ、い♪」
 「もしかして、君は私をヴァルハラへと導きに来た戦乙女、ヴァルキュリアなのでは?」
 「あ、あはははは」
  彼女は苦笑すると、
 「ち、が、い、ま、すっ!」
  今までにない怒声で一喝(いや、五喝?)してきた。しかし、その怒声には本気の怒りは感じられず、むしろ、可愛さが滲み出ていた。
  も、萌える……。
 「もぉ…しょーがないですねぇ。ワタシはあなたの天使だって、言ったじゃありませんかぁ」
  腰に手を当て、眉毛を山なりに垂らして悩ましい表情を作る彼女は、まさしく萌えを体現した存在にしか、もはや思うことが出来なかった。
  今まで疑問に思うことなく彼女を「私の天使さん」として受け入れていた私だったが、事ここに至り、私は考えを改めなければならなくなっていた。
  私は自覚したのだ。
  無意識的に認識することと、意識的に認識することというのは、決定的に違うことである。
  今私は、まさにその違いを痛感していた。
  私にとって、今目の前にいる天使さんは、私の、私にとっての、究極の萌えキャラなのだ!
  簡単に言えば、人生の伴侶である。
  何、余計分かりにくい、だって? クレームは受け付けませんので、悪しからず。
 
      二章・天使は萌え
 
  我が家もとい我が部屋へと帰りついた我々一行は、さっそく親睦を深めるためのコミュニケーションを図ることにした。
  いや、そんなこと彼の部屋に見せびらかしに行く前にしろとか言わないでいただきたい。これも伏線なのさ、フッ。
 「お腹が空いたね」
  わざとらしく言ってみた。実際に空いていたというのもあるが、或る実験のためである。
 「あ、はぁい♪ では何かお作りしましょうねぇ♪ 何がお好きですか? そうですか豚肉料理がお好きなんですね。じゃあ今日の晩御飯は豚の生姜焼きにしましょうねぇ♪ あらやだ、ワタシ、実は豚の生姜焼きが得意料理なんですよぉ? なんだかワタシったら久視さんのために料理をするために生まれてきたみたいですねぇ♪ ポッ」
  何なのだ。
  いきなり萌えパワー全開というか……新婚さん?
  いや、まぁ良い。予想以上の過激な反応に驚きはしたが、実験結果は、まずまずと言ったところか。
  彼女は依然浮いたまま、台所へと向かう。歩く動作はしていないので、浮いているという自覚はあるようだ。
  そして鼻歌を歌いながら、材料ごしにまな板をたたく包丁のリズミカルな音を刻み始める。
 「〜♪ 〜〜♪ 〜♪♪」
  いや待て。
  私は元々一人暮らし。アルバイトは一応しているが、一ヶ月をギリギリ過ごせる程度の給料をやっと稼いでいるだけ。食費に回す分量もさびしいもので、冷蔵庫の中は、いつも寒々しい。そんな状況で、彼女はいったい、何をどう料理して豚の生姜焼きなどという、現在の私にとってのご馳走を拵えようというのか?
  私は気になり、立ち上がって彼女の背後から近づいていき、その料理の様子を確認してみることにした。
 「…………」
 「〜〜♪♪ 〜♪」
 「そ、そっちで来たかーーーーーー!!」
 「ゅえ?」
  しまった! 変な声と共に首をかしげる彼女をよそに、私は内心で舌打ちした。
  私としたことが何たる不覚。さきほどの彼女のオノロケ長広舌に気圧された私は、萌えのパターンを読み違えてしまったようだ。
  彼女はきっとオノロケ・デレデレタイプの萌えキャラなのだろう。そう私は踏んでいた。だが違った。違ったのだ。
  見よ、この惨状を!
  俎上に散乱せしは無残なる青虫の開き。その数、十や二十では数え切れぬ。はたまた隣の鍋の中をオタマで掬ってみれば、何かの映画で見たような、ナニモノカの脳味噌がぐつぐつと煮込まれているではないか。
  ぐろてすく、嗚呼ぐろてすく、ぐろてすく。
  いや、現実逃避はよそう。
  よくよく見ればそんなものはあるはずもなく、まな板の上には、冷蔵庫に申し訳程度に保管してあったキャベツが、みじん切りにされていた。芯ごと。
  何故かぐつぐつ煮えている鍋の中には、これまた最後の希望として保管してあったレトルトカレーが入れられてあった。箱ごと。
 「天然でしたかそうでしたか」
 「ゅえええ?」
 「変な声だしてもダメ! 料理が出来ないなら出来ないと、言ってくれればいいのに……」
  私は貴重な食糧を、まさかこのようなかたちで蕩尽することになろうとは予想だにせず、ショックを隠しきれずに頭を抱えた。
 「う、うぅ、ううぅぅぅ」
 「な、泣くなってこんなことで」
  まさか本当にこういうことで泣くなどとは思わず――いや、萌えのパターンとしては読めてましたよ。しかしねぇ、まさか本当に泣くなんて思いますか? 思いませんよねぇ、普通。だって、正直気持ち悪いもん。
 「だって、だって……久視のために、お料理作ってあげたくて……それで、それで、がんばってみようかなって、思って……ひっく」
 「ああはいはい、わろすわろ…じゃなくて、ごめんごめん。言い過ぎたよ謝るよ。うんうん。じゃあ私も料理手伝うから、一緒に仲良く、レッツクッキーング! といこうじゃないか」
 「う、うん!」
  というわけで、しかたなくレトルトカレーを食べることにした。
  相変わらずボン・カレーは不味い、と思った。
 
                *
 
  翌日。
  珍しく朝早くに目が覚めた。いや、覚まされた。
 「起きて起きてぇ、ひぃさぁしぃ♪」
  オゥ、マイスィートエンゼル、そんな風にまだ起ききっていない私の身体を揺すぶらないでおくれ。不快なあまり布団の中に引っ張り込んで襲いたくなっちまう。
  そんなわけで、私は朝から不機嫌だった。いや、昨日の夜から、と言ったほうが良いか。
  というのは、完全夜型人間の私に対して、天使さんたる彼女が、早く寝ようと言ってきかなかったのだ。さらには、この部屋には布団が一枚しかないのを良いことに、一緒に寝やがった。添い寝しやがった。同衾しやがった。
  いや、私は断ったさ。紳士として、そのような蛮行を易々と許すような阿呆な真似はできない。
  だが、私が布団から出て地べたでガクガクブルブル震えながら眠ったふりをしているとすぐ、彼女が布団を引きずってやってくるのだ。そうして、飛び掛ってくるのだ。のしかかってくるのだ。
  しかし、不思議だ。電気を消した暗闇だからか、彼女が地に足を着いて歩いているように見えた。
  そうして幾度となき強襲にあった私は、否応無く紳士の規律を破るはめになってしまったのであった。
  私が降参してからは、途中で私が抜け出るなど考えもしないのか、すぐに彼女は寝込んでしまった。すぅすぅと可愛らしい寝息を立てている。穏やかな笑みを浮かべている。その顔を私の方に向けて眠っている。
  嗚呼、そのような状況で、神よ! 何事も無いように眠れる男がおりましょうか!
  もうしわけない、みなさん。私はこう見えて、玉の清らなるチェリーボーイなのですよ、ウフッ。
  あまりにも彼女が安心して眠っているようなので、それを裏切るのは悪い、という考えを建前に、たっぷりと女体の柔肌を堪能させていただいた次第。ぐへへ。
  いや、そこはさすがにチェリーボーイ。実際は身動き一つ取れずにカチコチだったため、彼女が抱きついてきている右の二の腕の当たっている部分しかわかりませんでしたよ。わはは。
  というわけで、私は極度のキンチョーのあまり、一睡もできずに朝を迎えてしまいました。しかし、鳥の囀り響き渡り、朝の陽光差し込む時刻に至って漸く、浅い眠りに落ちることが出来たのでありました。
  だと言うのに……。
 「ねぇ、起きてってばぁ、ひぃいさぁあしぃい♪」
  これである。
  このままでは私がチェリーを卒業してしまいかねないので、紳士として、ここは自らの身体に鞭打ち、起き上がることにした。
  嗚呼、朝は何故こんなにもだるいのか。そして何故、朝起きるとお腹の調子が悪いのか。
  私は青虫の死骸が散乱する台所の水道で顔を洗い、トイレへと向かった。
  おや、青虫の死骸? どうやら昨日のあれは、私の現実逃避が生み出した幻覚ではなかったらしい。三角コーナーにギュウギュウになって詰め込まれているこの映像は、朝の冷たい洗顔をした私の目に、厳然たる事実として映っていた。
  ん? となると、昨晩のボン・カレーが不味かったのは……。
  いや、考えまい。
  ガチャリ、と私はトイレのドアを開ける、と。
 「イヤァァァァァ!」
 「え?」
  見ると、中には既に天使さん、はばかりの最中でありました。
  いやはやこれは驚き入った、いったいいつの間に、などと感心する暇もなく、天使さん、近くにおいてあった予備のトイレットペーパーを私に投げて寄越しました。もしやこれを使って野糞をしろとでも?
  いや、これがどうやら、非力な肩で投げた、精一杯の威嚇攻撃だったらしい。
  私はその意志を了解し、紳士然たる態度でもって、目を瞑りつつドアを素早く閉めました。
 「もぉ。久視のえっちぃ」
 「いや、わざとじゃないって」
  朝の不機嫌の影響で、投げ遣り気味に返答する私。とりあえず、さっさとトイレを空けて欲しいということだけを考えていた。
  私は再び布団の上に戻り、受け取ったトイレットペーパーでお手玉をして待つことにした、が。
 「何やってるの?」
 「い、いつのまに!?」
  トイレットペーパーをポーンと一度上に放り上げて、それを取るか取らぬかの内に声をかけられた。
  どんだけ素早いんですかあんたは。
 「トイレもう空いたよぉ。行ってきたら?」
 「へいへい、言われずとも行きますよっと」
  気だるい身体に再び鞭打ち、考え無しに腰を下ろしてしまったことを悔い悔い、私はシズシズとトイレに向かった。
  そして、ドアを締め切る前に、
 「早くしてねぇ♪」
 「え? また入るの?」
 「ち、が、うっ! 今日はデートなんだからっ♪」
  なるほど、それで今日はこんなにも早くに揺すぶり起こされたというわけか。そしてそのために、前日早く寝ようと……。
  うぅむ。可愛らしいじゃあないか。
  朝の不機嫌を軽く払拭しつつ、用足しも払拭した私は、気分爽快でトイレから出てくることができた。
  いやはや、今日は良い天気だねぇ♪
 
  ザーーー。
 
  どしゃ降りだった。
 
  どこかレジャー施設的な場所への外遊を想定していたらしき彼女・天使さんは、この突然の雨――いやホントに突然だった、私がトイレから出るまでは窓外から燦々と降り注ぐ陽光に目を細めてさえいた――のおかげで、計画を変更せざるをえなくなったようだ。
 「じゃあ、今日はお家の中で、とことん遊びましょうっ!」
  などと言い出した。
 「遊ぶって言っても、何をして遊ぶの? 私って貧乏だから、テレビゲームの一つさえ持ってないよ」
 「トランプをしましょう♪」
 「そんなレトロなものわざわざ買ってない」
 「じゃあ百人一首♪」
 「トランプより持ってる確率低いと思うが……」
 「花札♪」
 「どんどんレアリティが上がっていく……」
 「マジック・ザ・ギャザリング!」
 「…………!」
 「お、持ってるんですね持ってるんですね、やったぁやりましょう♪」
 「惜しい。持っているが、自分のデッキ分しか土地カードが無いので対戦はできない」
 「……ぶぅ」
  天使さんはうなだれた。
 「これ以上無駄な問答を避けるために言っておくけど、この部屋に遊び道具は一切無い。まるっきり無い。何も無い。皆無。了承?」
 「……了承」
 「本ならある。よし、読書会をしよう!」
 「そんなのつまんないですっ、断固拒否です!」
 「しかたない。こうなったら、もうアレしかないな……」
 「アレ、ですか?」
 「そう、アレだ」
 「…………?」
 「わからないか? 一つの部屋で、二人の男と女のすることといったら、アレしかなかろう。ぐへへへ」
 「…………!」
 「ようやく気づいたか。さて、いろいろなプレイスタイルがあると思うが、どれがいい? 一つしか選べないから慎重にな」
 「……え? なんで一つに絞るんですか?」
 「なんでって君ぃ、そんな複数回もやれるようなもんじゃないだろ?」
 「え? 一回でそんなに凄いのを……ドキドキ」
 「まぁ、そう緊張することはないさ。人生一度は通る道だ。一人で樹海へ行くよりも、こうやって二人でやったほうが楽しみが増すというもの」
 「……樹海? え? ええ?」
 「どうしたんだ。さぁ、まずプレイスタイルを指定してくれないと、武器の選定もままならないじゃないか」
 「ぶ、武器ぃ?」
 「ナイフにするかな、それとも、包丁? やっぱり果物包丁がベストか……いやいや待て待て、逆に殺されては元も子も無い。ここは長柄のものを使いたいところだが……うぅむ、しかし飛び道具使用可のプレイスタイルだった場合はどうするか。パチンコ? エアガン? ダメだ。すっかり自分の趣味に没頭する余り、飛び道具を一つも持ってないぞ! これは危険だ。彼女が頭の上に浮かぶ輪っかを、『八つ裂き光輪!』とか言って投げてきたら一巻のお終いだぞぉ、大ピーンチ!」
 「ちょ、ちょっと待ってください! いったいどんな遊びをしようってんですか!?」
 「何って、殺し合いだろ?」
 「…………!!」
 「愛しみあう二人の男女、彼らは互いを思うが為に殺しあう! 嗚呼、これぞ究極の美! 究極の遊戯!」
 「どうしてそうなるんですかっ! めちゃくちゃ怖いですよ。……ああ、これなら確かに、彼とお友達になれるのもうなずけますね」
 「彼? ああ、そうだ。じゃあ彼の部屋に遊びに行こう! 彼はたしか、死神とかいう生き物を飼うことにしたらしいから、何か面白い話が聞けるかもしれないしね。うむうむ、こちらの自慢話を聞かせがてら、根掘り葉掘り、死神について聞かせていただくとしようじゃないか。ぐへへ」
 「何かただならないタナトスの逆衝動めいたものを感じますが……まぁ、殺し合いよりは断然良いですね。はい、もうそうしましょう。諦めますよ」
 「ん、いや待てよ……」
 「ど、どうしたんですか? 何かイケナイ事を考えてるんじゃないでしょうね?」
 「活けない事? いや、これは結構、活かした事だと思うよ、うん」
 「…………」
 
      終章・天使は死神
 
 「それで、どうして私はあなたに監禁なんかされているのかしら?」
  彼女――死神さん――が口を開いた。
  そう、私は死神さんを誘拐拉致して、監禁した。
  理由? 愛玩のため。
  どうやって誘拐したか? 天使さんにやってもらった。
  どこに監禁したか? ワタシの部屋――空間――小宇宙――。
 
  さぁ、死神さん……ワタシと遊びましょう。
 
                *
 
  無表情という名を冠した表情を浮かべ、死神さんは私を視た。
  私はこうして、死神さんを某友人の部屋から誘拐してきたわけだが、実行犯は私ではない。では誰かと言うと、天使さんである。
  そのため、生憎と私は、彼が死神さんを誘拐される様を目の当たりにしてどのような表情を浮かべているのかを拝むことが出来なかったわけだ。そんな事態に陥った彼というのは想像が難しく、この目で確認したかったと心から思うのだが、仕方ない。うまく天使さんが誘拐に成功してくれただけでも儲け物……というと表現が少し違うかもしれない。何せ、"天使"さんなのだ。故に、"失敗"なんてするはずがないのだから。そう、天使さんは私のためだけに降臨した、究極の夢想の具現なのだから。
 「あなたは、何がしたいの?」
  死神さんがまた私に問いを発する。
  問い……疑問を発するという行為を、死神さんが、私に向かってしてくれている! 素晴らしすぎるじゃないか、そう思うだろ、そこの君も!?
  だが私は答えない。いや、答える事はできるのだが、どうせ彼女には理解できないだろう。
  芳一の耳に念仏、というやつだ。
  え? それを言うなら馬の耳に念仏だって? いやいや、君は「耳無し芳一」の話を知らないのかい?
  鬼に連れ去られそうになった芳一って小坊主が、それを避けるために全身に念仏を書き込んで鬼の目に映らないようにしたんだけど、うっかり耳にだけ念仏を書くのを忘れちゃって、芳一の耳だけ浮かんでるのを見つけた鬼が、不思議に思いつつもその両耳を引っ張って持って帰ろうとするんだね。でも当然耳には身体がくっついてるわけだ。だから耳が引っ張られると身体もいっしょに引っ張られて、結局連れてかれそうになっちゃう。でも、その間、芳一は絶対喋ったり動いたりしちゃダメって決まりになってたから、何も抵抗できずに引きずられるがままの芳一だったんだけど、ついに両耳がちぎれちゃって、耳だけ持ってかれちゃったってお話。
  グロいよね、うん。私が初めてこのお話を知ったのは漫画だったんだけど、こんなもん漫画化すんなよって話だよね。当時小学生だった私にとってはグロ過ぎだよ、まったく。
  え? それで結局何が言いたいのかって? つまり、本来は言うべきことなんだけど、実際に言っちゃうと完全に見えなくなってしまう。でも本来の目的はそうじゃない。行動と目的が一致してないんだな。私は死神さんに理解してもらいたい。そのためには私が説明しなくちゃいけない。でも、実際に説明しちゃうと、それはまったくの別のものになってしまうんだな。そのせいで、言いたいことが伝わらなくなってしまう。
  もどかしいけど、ここは言わない選択をすることにしたいと思うんだ。
 「……そう、答える気はないのね」
  私の沈黙を解釈した死神さんが言う。
  もしかして、死神さんは私の事情を理解してくれたのだろうかと、淡い期待を抱いてみる。
 「いいわ、なら、私が教えてあげる」
  ん? どういうことだ。死神さんはこの事情を知っている? いや、そんなはずはない。それはありえないようにできている。構造的に無理がある。
  では、一体何を教えてくれるというんだ?
 「あなたは、"死そのもの"なのね」
 「…………」
  返答が思いつかない。彼女は何を言おうとしているんだ?
 「そうでなければ説明がつかないわ。私を"彼"から引き離し、"こんなところ"に閉じ込めるなんて芸当の説明がね」
  おかしい。
  死神さんは、こんなによく喋るキャラだったか?
 「私は"死神"。そしてあなたは"死そのもの"……たしか、あなたの名前は長生久視とか言ったわね。ちょうせいきゅうし……長生きって意味ね。この名前自体おかしいじゃない。明らかな皮肉ね。死を具現させるということは、死に生を与えるということ。そして"死そのもの"には、そもそも生きるという概念も、寿命なんてものも持ち合わせていない。生に真っ向から対立する死を具現させる、つまり存在という形態に変換するという行為は、死を生という存在形態に変換しなければいけない。でも、死はそれ自体で、或る意味既に完結している。言い換えるなら、完結し続けている。でも、このことが逆に、死を具現させうる唯一の条件になった。すなわち、生であり続けるという形をとることによって、つまり、永遠に完結しない存在形態。これは確定されることがないために、死という生の形態にそぐわぬものでさえ、生の形態の中に収めることができる。つまり、死を具現させることが出来る。それが、長生久視という容れ物だった、というわけね」
  喋りすぎだよ、死神さん。
 「私は"死神"。そして"彼"は、そんな私を存在させる存在。本来私は"彼"に属するもの。それは絶対的。だから、私が"彼"から離れるなんてことはありえないはずだった。でも、それができる存在が一つだけあった。それが"死そのもの"。ううん。本来ならこれは、ありうべからざるもの。ありえないもの。死が具現するなんて、ありえないものね。だから私が、"彼"から引き離されるなんて心配はなかったの。
  でもそれが、ありえないはずの死の具現が、さっき言った方法で成されてしまった。となれば、私が"彼"から引き離されて、"あなた"に誘拐拉致監禁されるのも不思議じゃない」
  だから、喋りすぎだってば、死神さん。
 「私は"死神"。死の匂いに敏感なのよ。死神ですもの。でも、私が最初にあなたと会ったとき、なんだかとても嫌な感じがしたわ。それはあなたが"死そのもの"だったせいなのね。私は"死の匂い"という、"死そのものからの派生物"には惹かれるけれど、私の謂わば母体である"死そのもの"には嫌悪を催すの。それは同類嫌悪というよりも、自分よりも上位に位置するものに対する劣等感に由来しているのじゃないかしら」
  もういいよ、もう喋らなくていいから、死神さん。
 「そうよね、長生久視さん? 何か間違っていることがあるかしら、人非人の"死そのもの"さん――これじゃ言いにくいわね、やっぱり元の呼び名で充分ね。結局名前なんて容れ物に過ぎないんだから――長生久視さん、どうなの?」
  うるさい、うるさいうるさい。何言ってんの? 死神さん、わけわかんないよ。何が死そのものだって? 何が死神で、何が長生久視だって?
  何それ、何なのその理論? 意味不明。私はただ死神さんと遊ぼうと思って、天使さんに頼んで連れてきてもらっただけじゃないか。それなのに君は変な理由付けをして、私のことを"死そのもの"だなんて言う。わけわかんないよ。なんでそんなこと言うの?
  おかしい、おかしいおかしい。おかしいよこんなの。こんなの死神さんじゃない。誰だ、誰だ誰だ。こいつは一体誰だ!
 「痛い、やめてよ。なんなの、ひっぱらないで!……あっ!」
  なんだ、なんだなんだなんだこれ! こいつ死神さんじゃない! 天使さんじゃないか! なにやってんだよこいつ! こいつには死神さんを誘拐してこいって言ったんだぞ! それがなんで、自分が死神さんの格好して、死神さんのふりして、私のこと騙そうとしてんだよ!
  お前、天使さんなんだろ! だったらなんで死神さんを誘拐してくることぐらいできないんだよ! なんでテメェが死神さんのふりしてんだよ!
  天使ってのは天界に仕える存在なんだろ。天界ってのはつまり、死後の世界だよな。つまり、"死そのもの"、言い換えるなら"死後の世界そのもの"のワタシの言うことはなんだって聞けるはずじゃないか。それがなんだこのザマは。ええ? なんとか言ってみろよ、この役立たず!
 「支離滅裂です。さっきは自分が"死そのもの"であることを否定しておきながら、ワタシを責めるためには自分が"死そのもの"であることを利用するんですか」
  そうだよ悪いかよ。ワタシはそういうものなんだよ。そういう風にできてんだよ。それをお前ごときにとやかく言われる筋合いはないね。お前はただワタシの言うことを聞いてればいいんだ。それが、何を偉そうに反抗してるんですか? あなたは何様ですか?
  天使様ですかそうですか。でもワタシは"死そのもの"です。つまりワタシはあなたよりも偉いんです。ですから、ワタシがあなたに偉ぶられる筋合いは無いと思うんですがどうでしょう?
 「そうですね。でもワタシはワタシです」
  は? 何言ってんの? トートロジー?
 「解りやすく言いましょうか。ワタシはあなただってことです」
  はぁ? わけわかんね。何が言いたいわけ? ワタシがお前? お前がワタシ? ワタシがワタシ? 結局、ワタシってのは誰なんだ? なんだこれ、なんなんだこのアリガチな哲学問答は。つまんね。つまんなすぎだこれ。
 「簡単な話ですよ。ワタシに死神さんを誘拐することはできないってことです。ワタシは所詮天使にすぎません。死神さんに成り代わることも出来なければ、死神さんそのものを持ってくることもできない。所詮は、"猿真似"が限界なんです」
  うるさい、うるさいうるさい。もういい。もういいよ。もういいから黙れ。っていうか死ね。お前もういらね。だから死んで。
 「分かりました。じゃあ、そろそろ終わりにしましょうか」
 
      補遺・天使は夢想
 
           ※     ※     ※
 
  僕は気だるい瞼を無理矢理に開けて起床した。昨夜は少し飲み過ぎたようだ。
  突然、昔の同級生が部屋にやってきて、勝手に缶ビールを並べ、無理に僕にも飲ませ、挙句の果てに酔いつぶれて眠りこけ、叩き起こそうと何度と無く強烈な蹴りを入れてやるも一向に起きる気配がなく、僕自身もまた、飲まされた影響で眠気に襲われたため、ひとまずベッドに横になろうと思ったら、そのまま眠ってしまったものらしい。
  窓外は既に昼の日の高さだ。
  まったく迷惑なものだが、少し気になる出来事が昨夜あった。
  僕の部屋に住み着いているというか、僕が飼っているというか――死神が僕の前に現れたのは数日前のことだ。彼女はどうやら、僕以外の人間には見えないらしく、また触れることができるのも僕だけらしかった。
  それが昨夜は、昔の同級生――たしか名前は、永尾久司とかいったはずだが――が、酔っ払った感じで、死神が座っているあたりを向いてこんなことを言った。
 「あれ、彼女ぉ、いつからそこにいたの? そのまっさらな肌がお美しい! 是非ともお近づきになりたいものだね。名前はなんて〜の? え、シニガミ? ふぅん、変わった名前だねぇ。犬神って苗字ならありそうだけど、って無いか。ハハハハハ!」
  彼女自身は何も喋っていなかったと思うが、これはいったいどういうことなのだろうか?
  他にも、僕が眠りに落ちる前、既に眠りこけていた永尾君は、寝言で「レッツクッキーング!」だとか「マジック・ザ・ギャザリング!」だとか「殺し合い」だとか、訳の分からないことを口走っていたが、これは関係無いか……。
  僕にはよく分からないが、何か、僕たちを視ている外的な視線といったものを感じるのは、気のせいだろうか?
  おや、永尾君が目を覚ましたようだ。
 「ああ? なんだ? 終わりって……天使さんめ、どこへ行きやがった。死体が無きゃ死んだかどうか判断できねぇじゃねぇか」
  嗚呼、また訳の分からないことを言っている。どうにかしてくれ、この覚えの無い友人を。

 
〈了〉

 

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 ◆ あとがき
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  諸事情あって、書き始めから完成までに、2ヶ月かかった。
  なんとか脱稿できて良かったと思う。
  しかし、この長期間にわたる執筆の影響で、内容の少なさに関わらず、文章の癖の変化が激しいものになってしまったように思う。
  こことここはきっと長期間放置されていたな、という箇所が、おそらく読者にもわかってしまうのではないだろうか。
  この点は、杞憂に終われば良いのだが。
 
  内容に関しては、おそらく読者のほとんどが、作者は一体何が言いたいのかよくわからないだろうと思う。
  なるべく解釈が効くように、各要素をクォーテーションマークで囲み、解りやすくしたつもりだが、それでも足りないと思う。
  そこで、この頁を使って、少し簡単に、作者の意図した「物語的主題」(参照『ゲーム的リアリズムの誕生』東浩紀、講談社現代親書)を、自己解説したいと思う。
  そのためには、本作品のネタバラシが必然的に必要になるため、もし、本編を読む前にこのあとがきを読もうと思っている読者は、その点について一考いただきたい。
  では、以下に自己解説を始めよう。
 
      *     *     *
 
  本作品の意義は二つある。
  その内、第一の意義は、「死神さん」の持つ属性の内、「萌え」を取り払い、「死神」としてのその在り方を強調することにある。
  そのためには、まずは死神さんの萌えな言動を極力抑え、別の存在に極端な萌え的言動を荷担させることによって、死神さんの持つ萌え属性を解消させる必要があった。
  これにより、少なくとも本作品中では、萌えキャラは死神さんではなく、その別のキャラであるという認識を読者に持たせることができる。
  その別のキャラというのが、「天使さん」である。
  彼女は、「完全無欠の萌えキャラ」を夢想して作られた。というのは、死神さんの持つあらゆる萌え属性を完璧に吸収する必要があったからだ。
  しかしまぁ、正直に言って、「天使さん」が萌えキャラだとは、作り手たる自分としても思いがたい。しかし、作者の力量ではこれが限界であったようだ。キャラ造形の才能ある原作者・有瀬さんに心からの敬意を表したい。
  しかしながら、ここで重要なのは設定だ。天使さんが萌えキャラだということになっているという設定は、登場人物紹介でも本編中でも言及されている(本編第一章の最後ら辺に「天使さんは、私の、私にとっての、究極の萌えキャラなのだ!」というモノローグがある)。
  これによって読者の「萌えキャラ」に対する注意を天使さんに集める。成否なんて知らない(投げ遣り)。
  それを行いつつ、これは死神さんを主題に取ったパロディ小説でありながら、死神さん自体をほとんど登場させないという暴挙にでる。
  これは、実際のところを言ってしまうと、筆者が「死神」さんというキャラクターのオリジナルをトレースして描ききる自信が無かったというのが最も大きな理由と言うべきなのだが、これを逆手にとって、死神さんが萌えな言動を取らせないために利用した。
  そしてそのトレース能力の不足は、最終章の死神さんの、謎の長広舌においても利用されている。
  結局、異常なほどよく喋る死神さんというのは、天使さんの変装だったわけだ。
  更に、この異常な長広舌を利用し、その内容を、「死神さん」の、本来の「死神」的立ち位置を、筆者なりに解釈したもので埋め尽くした。
  結論としては、死神とは「死」を司る存在なのであり、それは「萌え」などとは本来無縁なものなのだ、ということを訴えたかったわけだ。
 
  では次に、本作品の第二の意義の説明に移りたい。
  もう一つの意義とは、二次創作小説というジャンルの批評的利用である。
  最後まで本編をお読みになった読者ならお分かりいただけるだろうが、この作品は簡単に言って「夢落ち」で終わっている。
  しかし、それを単なる夢落ちにしたつもりはない。
  本来、二次創作小説と言うのは、それが二次創作小説であることを匂わせるような言辞や、原作の存在を匂わせるような言辞は控えるものだろう。
  それを私は、敢えて行った。
  たとえば――本編第一章冒頭にある「彼答えて曰く、死神、なんだそうな。(本文改行)これもまた不思議なことに、私は何の疑問も無く、ただ『ふぅん』の一言を以って、それを事実として受け入れられた。」というモノローグや、本編補遺にある「僕にはよく分からないが、何か、僕たちを視ている外的な視線といったものを感じるのは、気のせいだろうか?」というモノローグや、同じく本編補遺にある「どうにかしてくれ、この覚えの無い友人を。」というモノローグ、特にこの最後のモノローグは、原作者の意向を無視して勝手に二次創作小説を作る書き手を意識した言辞となっている――などが、それを示している。
  そして、天使さんという存在は、永尾久司という人間(長生久視という名は、こいつの夢の中ででっちあげた偽名。意味を持たせるために改名した。読者にその意図を知らせるために、本名と夢の中の名前は別表記にした)のでっちあげた夢の存在だったということが判明する。
  更に、それに伴い、永尾久司がその目で見たはずの死神さんもまた、夢の存在であったことになる。
  しかし、読者に夢落ちを知らせる本編補遺において、原作主人公の「僕」は、永尾が、夢を見る前、すなわち眠りこける前に、死神さんを実際にその目で見、会話しているかのうような場面を目撃する。もちろんこれは私の二次創作小説中におけるできごとであるが、これは或る意味を持ったできごととなる。
  すなわち、オンライン小説として公開されている原作小説「あるいは、モノクロな死神と、」であるが、これをそれぞれの読者は読み、「死神」というキャラクターに、それぞれの思いを馳せることが出来る。しかし、それらの思いは、決してオリジナルではない。すべてがパロディなのだ。
  よって、本作品の第一の意義たる「死神さんの本来の死神的立ち位置の説明」も、筆者の独断による勝手な妄想でしかないわけだ。
  そういった現実を、私はこの二次創作小説において示したつもりなのだが、はたして少しは成功しただろうか?
 
      *     *     *
 
  最後に、スペシャルサンクスにお礼を申し上げたい。
 
  すなわち月凪さん。あなたの死神さんを描いた絵には良い刺激をもらいました。
  ベッドに横たわる死神さんのイメージは、月凪さんのイラストを見たことによって、確固たる印象が刻まれた感じがします。もしかするとこのイラストを見ていなければ、本編中で死神さんをどういう姿勢で登場させるか、非常に迷ったことになっていたかもしれません。
  そして、忘れちゃいけない、本家様宗家様原作者様。
  死神さんという素晴らしきキャラクター、またそのキャラクターの存在する独特な雰囲気を醸し出す世界観を描きだした、有瀬慎二さんという原作者さん。
  この方なくして本作品は当然の如く生まれませんでした。
  こんな文才無きただの物書き好きな私に、腕足らずが明らかではありますが、一つの作品を作る機会を生み出してくださったことには感謝しています。
  最後に、ありきたりではありますが読者の皆様(と言って、果たしてこんなものを読む気になるような方が居られるのかがまず甚だ疑問ではありますが)、こんな駄作を、そしてこんなダラダラのあとがきを最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
 
  それでは、また何かの機会でお目にかかれることを願いつつ。
 
 2007・6・12
 筆者




Title:『すべてが、コントラストな天使さん。』

双城真也様より。「死神」読了記念...?
疎外の小説"死神"のパロディ作品。新キャラ要素などを興味深く拝見しました。

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